賃借人の漏水調査への協力義務違反と契約解除

東京地裁平成26年10月20日判決

 本判決は、建物の賃貸借契約において、賃借人が漏水調査に協力しなかったことを主たる理由として、信頼関係の破壊を認め、契約解除を是認した事例です。

事案の概要

2003年(平成15年)4月賃貸借契約開始
家賃84,000円、期間2年(建物はこの時点で築24年・木造)
2011年(平成23年)4月更新契約書について、賃借人が「法律・規則で明白な条文等は削除してください」などとしたことから、合意に至らず(法定更新となる)
2011年5月賃借人の立ち会いの下の調査により、漏水の痕跡が認められた
賃借人が、更新及び漏水調査において管理会社に不信感を抱き、やりとりに一切、応じなくなった
2011年11月賃貸人は、漏水調査に応じないことを理由に契約を解除し、明渡訴訟(前訴)を起こした
2012年7月前訴手続中に、漏水調査の協議がなされ、漏水確認修復工事が完了
2012年9月賃貸人が前訴の請求を放棄し、前訴は終了した
2013年5月階下の住民から、天井に漏水が生じているとの連絡があり、漏水調査を実施
その結果、本件居室の浴室床躯体の亀裂からと確認
賃貸人から賃借人に、立入調査への協力を要請するも、過去の同様の漏水調査で無関係であることが判明している、などと要請に応じなかった
2013年10月階下の部屋の合意解約、賃貸人は階下の入居者に、補償費25万円及び引越費用全額を支払い、敷金も全額返還し、階下の入居者は退去した
2013年12月賃貸人が訴訟を提起。訴状送達をもって、債務不履行解除(予備的に解約申入れ)の意思表示をした

争点

 本件の主たる争点は、①賃借人の債務不履行による契約解除の可否、②賃借人の協力義務違反と賃貸人の損害との因果関係、③漏水工事が完了するまでの階下の部屋の(退去日以降の)階下の賃料相当の損害賠償です。

裁判所の判断

 裁判所は、漏水の調査及び修繕工事は建物の保存に必要であるから、賃借人には協力すべき義務があり、本件で賃借人の拒絶に正当な理由はないとして、債務不履行(協力義務違反)を認め、解除による明渡義務を肯定しました。
 そして、階下の部屋の解約に伴い、賃貸人が階下の入居者に対して支払った、補償費25万円,移転費22万9600円,引越業者代4万9350円及びハウスクリーニング費用3万9900円の合計56万8850円も、因果関係を有する損害として、損害賠償を認めました。
 もっとも、階下の部屋の賃料相当額を負担する期間については、漏水工事完了までではなく、調査が可能になるまでとしました。漏水自体は賃借人の責任ではないので、調査後、工事完了までの期間は責任を負わないという考え方です。

ポイント

 賃貸借契約のトラブルにおいて、修繕や調査への協力が得られない、という例は意外と多くあります。特に、何らかの事情で賃貸人と賃借人の間に不信感などがある場合に問題となります。
 大半は、それでも間に第三者(弁護士等)が入れば、協力に至り短期間で解決します。ただし、中には裁判となったり、仮処分(緊急性がある場合の裁判所の決定)となったりする場合もあります。
 調査や点検、修繕は、ときに建物の価値に関係したり、利用する方の安全や衛生に影響したりする場合がありますので、お困りの場合は、弁護士にご相談されることをお勧めします。

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