借上げ公営住宅の期間満了による明渡し

神戸地裁平成29年10月10日判決

 この裁判例は、神戸市が所有者から借上げて提供する市営住宅が、期間満了により終了する場合、通常の賃貸借契約のような更新拒絶の正当事由などは不要であり、公営住宅法に定められた入居の際の通知も適法になされているとして、明渡義務を認めたものです。

 なお、この判断は、大阪高裁平成30年10月12日判決でも維持され、上告審(最高裁平成31年3月19日決定)でも上告が棄却され、確定しています。

借上げ公営住宅とは

 社宅の一形態として、「借上げ社宅」があります。これは民間に提供されている建物を会社が賃貸し、社員に社宅として提供(転貸)するものです。

 借上げ公営住宅も同様です。自治体が、建物を建設・購入することなく、第三者の所有建物を借り上げて、公営住宅として市民に提供するものです。

借上住宅の契約

 本件では、UR都市機構の所有建物を、神戸市が借り上げ(原賃貸借契約)、それを公営住宅として市民に提供していました(転貸借契約)。

 UR都市機構と神戸市との契約は、1996年(平成8年)から2016年(平成28年)までの20年間とされ、延長も可能でしたが延長はされませんでした。 

入居

 入居者は、入居時60代の女性で、2002年(平成14年)年9月1日入居を内容とする入居許可がされました。同年8月22日に交付された入居許可書には家賃などと共に、借上げ期間満了の2016年10月31日までに明け渡すことが記載されていました。

 その後、期間満了の7ヶ月前の2016年3月8日に、神戸市から同年10月31日に明け渡すよう求める通知がなされました。

争点

 本件の争点は、2点です。

 第一に、入居の際に必要な通知の有無です。公営住宅法では、借上公営住宅の「入居者を決定したとき」に、「借上げの期間の満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない」とされています(同法25条2項)。この通知があったといえるかが争点となりました。

 時系列としては①入居者申込み→②入居者決定→③入居者からの使用証書等の提出→④入居許可書交付ですが、このうち、期間満了時の明渡義務は④の許可書に記載されており、厳密には入居者決定と同時ではありません。そこで、上記通知があったといえるか、という問題です。

 第二に、入居の際の通知がなかった場合に、明渡義務が否定される場合があるか、ということです。定期借家のように、入居時の手続の不備が明渡義務に影響するか、ということです。

裁判所の判断

 裁判所の判断は次の通りです。

  • 公営住宅の使用関係には公営住宅法や関連条例が民法や借地借家法に優先して適用されるが、特に定めがなければ一般法である民法や借地借家法の適用がある(最高裁昭和59年12月13日判例参照)
  • 借上公営住宅の使用関係については、借地借家法における更新拒絶の正当事由の要件(同法26条1項、28条)は排除され、借上期間満了後に使用関係は更新されない
  • 入居者に対する期間満了後に明渡義務があるという旨の通知は、入居許可の時点でなされていればよい
  • 公営住宅の入居者については、事業主体(自治体)が自由に選択できるわけではなく、公営住宅の使用関係の設定の場面で私人間の契約の法理が当然に適用されるわけではない
  • 以上の理由で、必要な入居時の通知はあったといえ、明渡しは認められる

ポイント

 公営住宅が民間の建物を借り上げて提供されることは、既存の建物の有効活用であったり、地域的、時期的な需要の偏在・変動に柔軟に対応できるものであって、望ましいものといえます。

 したがって、期間満了をもって明渡義務があるという結論を導いたこの裁判例は、そうした制度の活用を推進するという趣旨でも妥当と考えます。実際、高裁や最高裁も結論を支持しています。

 公営住宅についての裁判例が、民間の建物賃貸借契約のトラブルや運用においてどこまで参考となるかはわかりませんが、公営住宅をめぐる裁判も少なからず相談されますので、参考のために照会しました。 

 

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