シェアハウスでの解除が無効とされた裁判例

東京地裁平成27年11月10日判決

 本件は、シェアハウスを借りていた入居者に対して、シェアハウス経営会社が契約を解除したとして、玄関の鍵を交換したり、利用部分を封鎖したりした行為について、解除は無効、鍵の交換は違法と判断したものです。 

物件・契約

 このシェアハウスは、東京都渋谷区にあり、マンションの2DKタイプの部屋だったものです。家主は、各所に二段ベッドを置くなどし、カーテンや板で仕切るカプセルタイプを10箇所、個室タイプを3箇所設け、合計13の専有部分に区切って、シェアハウスとして貸していました。

 問題となった件は、入居者との間で賃料を43,000円として賃貸借契約を結んで、2012年12月から入居者は部屋を利用していたものです。

解除通知

 2014年9月に、入居者は、他の居住者が騒いでいて迷惑であったという趣旨のメールを家主側に送るなどしました。

 その翌月である10月に、家主側から入居者に対し「修復しがたい信頼関係の喪失」があったため、「即日契約解除」するとし、「即日退去して下さい」とのメールを送りました。理由としては「他の入居者への迷惑行為」を挙げていました。

家主による鍵交換

 その後のやりとりで、家主側が「10/31を期限」として退去を求める旨、通知しました。そして入居者の承諾のないまま、11月1日に玄関の入口の鍵を交換してしまいました。

 そのため、この入居者は同日に外出先から帰ると、部屋に入れず、一夜を外で過ごすことになりました。その後部屋には入れたものの、入居者の鍵では玄関の施錠・解錠ができなくなっていました。

 11月3日に、入居者は弁護士を通じて解除の無効と鍵交換の違法を伝えましたが、9日には入居者が在室中にもかかわらず入居者の利用部分の扉を取り外し、その後入居者が外出している間に、利用部分を閉鎖して利用できなくしました。

裁判所の判断

 裁判所の主な判断は次の通りです。

  • 本件は普通賃貸借契約であり、解除するには、契約違反が形式的ではなく「信頼関係を破壊する程度に至る」ものである必要がある。
  • 信頼関係の判断には、シェアハウスの特性(他の契約者との共同生活、防音性の低さなど)も考慮して検討すべきである。
  • 家主が主張する入居者の規約違反には十分な証拠、根拠がない。苦情を述べた他の利用者こそが問題であった可能性もあるし、証人の証言も不整合な部分がある。
  • 家主が勝手に利用部分の鍵を交換したり、玄関の鍵を交換したりしたことは、解除が有効であっても自力救済で違法である。ましてや本件では解除が無効であり、不法行為に該当する。
  • 入居者は、就職活動や資格試験の面でも影響を受け、荷物の搬出すらできずに閉め出されて大きな精神的苦痛を被った。慰謝料の金額は30万円(主張全額)相当に及ぶ。
  • 家主には、その他の新たな住居のための諸費用22万円、利用できなかった2ヶ月分の既払い賃料も支払う義務がある(合計60万円超の支払義務あり)。

この裁判例のポイント

 家主が、賃貸借契約の違反を主張して退去を求める場合には、法的に正当な手続(催告・解除・判決・執行等)を経なければ、自力執行として違法となります。

 これは、シェアハウスなどの特殊な契約であっても変わりありません。もちろん、通常の賃貸借契約でも、正当な手続をとる必要があります。

 賃料滞納ではない契約違反は、違反の存否が必ずしも明らかではなく、また、その程度が信頼関係の破壊に至っているかどうかも判別し難い部分があります。

 家主は、契約違反の客観的な証拠(写真、録音、メール)を十分に確保すると共に、当該違反が解除に必要な程度に至っているか法律の専門家に相談し、適切な法的手段に則って処理すべきです。

 この事案では、慰謝料の金額は入居者の請求額である30万円となっていますが、事案によってはさらに大きな金額になることも考えられます。最終的な支払額の他にも、そもそも訴えられて裁判をすること自体が多大な負担を負うことになります。

 家主の方が入居者に退去を求める場合には、行動する前に一度、専門家にご相談されることを強くお勧めします。

 

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