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東京地裁令和3年11月29日判決
本件は、東京都港区内にビルを有する家主が、貸している店舗物件で転貸があったとして契約解除を通知し、解除が認められた事例です。
契約内容
この物件は1980年代から、賃借人に対して貸し出され、主に衣料品販売、化粧品販売等の店舗として使用されてきました。
更新が繰り返され、直近の契約内容は次の通りでした。禁止行為や解除要件は一般的なものです。
賃貸借期間 | 2018年4月20日から2020年4月19日まで |
賃料 | 70万円/月 |
共益費 | 2万円/月 |
消費税 | 賃借人は賃料及び共益費に賦課される消費税相当額を別途負担 |
禁止行為 | 本件建物の全部又は一部を第三者に転貸し、又は使用させてはならない。 |
契約の解除 | 賃借人が転貸禁止等の契約違反に該当することがあったときは、賃貸人は何らの催告なしに本件賃貸借契約を解除することができるものとする。 |
転貸の概要
賃借人は、2009年11月に、かつら販売業大手のA社との間で商品販売業務に関する契約を締結し、A社は2010年4月頃にこの物件に女性用ウィッグの専門店をオープンしました。
その後、約10年間、A社はウィッグ専門店としてこの物件を使用していました。
賃借人とA社は、両者間の契約を賃貸借契約(転貸)ではなく、A社から賃借人に対して商品販売業務を委託する契約であり、支払われる料金も、賃料ではなく業務委託手数料である、などとしていました。その料金は、最低保証額が月額132万円(税別)で、売上が2000万円を超えた場合に超過額の2%を加算するというものであり、加算は実際にはなされたことがなく、事実上は132万円固定額でした。
また、A社従業員が本件店舗に派遣され、賃借人の従業員は一人も本件店舗では働いていないという状態でした。
家主は2019年に転貸の事実を知り、契約の解除を通知して賃借人及びA社に建物明渡を求めて提訴しました。
争点
裁判上の争点は次の通りです。
①転貸の有無
転貸ではない、と主張する賃借人及びA社は、業務委託として売上げに連動した販売手数料を支払っている、建物使用の警備料金、電話料金、保険料等は賃借人が支払っている、A社従業員の稼働は受託業務の履行補助に過ぎない、など主張しました。あくまでも、賃借人がA社から手数料を受け取って受託業務を行っている、という形です。
これに対して家主としては、事実上の定額払い、賃借人従業員の不在等を主張して反論しました。
②承諾の有無
賃借人及びA社は、本件店舗がA社のブランドであることは一見して明らかであるが、家主は長期間問題視してこなかった、などとして黙示の承諾があった、としました。
家主は建物の外観のみしか確認できず、スタッフの所属や業務契約の内容は判らなかった、と反論しました。
③信頼関係破壊の有無
賃借人は、仮に転貸であるとしても、賃料支払に問題はなく、使用態様の変更もないから家主に不都合・不利益はないとして、信頼関係は破壊されていないと主張しました。
家主は、無断転貸である以上、信頼関係は破壊されている、と主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、結論として無断転貸による契約解除を認め、賃借人に退去を命じました。
転貸の有無については、毎月定額の支払いをしていたA社が賃料と認識し、働いていたのがA社従業員のみであり、必要諸経費もA社が負担していた事実などから、これを認めました。
承諾の有無については、家主が、転貸について確信的に知ったのが近時であった、という家主の供述が信用できるとして、転貸を承諾していたことはない、と判断しました。
さらに信頼関係の破壊については、「使用利益を言わば横流しする行為」と述べ、原賃貸と転貸の間の賃料差が大きいことなども指摘して、信頼関係の破壊を認めました。
ポイント
建物の賃貸借契約においては、家賃滞納が最も典型的な契約違反ですが、それ以外にも迷惑行為や目的外使用、定員超過などの契約違反が問題となることも多く、本件のような無断転貸も少なからず生じています。
契約違反による解除では、信頼関係の破壊の有無(無断転貸や無断増改築では、文言として「背信行為と認めるに足りない特段の事情があるか」という言い方がなされることもありますが、価値判断としては、両者は共通すると考えられます。)が問題となります。
本件は、家賃の差額を賃借人(転貸人)が得ている事実などから、家主に表面上は不利益・不都合がなくても、解除が認められる、とした点で参考となります。