信頼関係破壊の法理

契約の解除

 一般的に、契約において、相手が義務を履行しないなどの契約違反があれば、その是正を催告(催促)した上で、解除することができます(民法541条)。

 しかし、建物の賃貸借契約の場合は、これはそのままは当てはまりません。契約違反にも様々な内容があり、程度の軽い些細な違反もあります。解除による入居者への影響は非常に大きいので、多少の義務違反の場合は、解除が認められません。

信頼関係破壊の法理

 裁判上、土地建物の賃貸借契約において、義務違反がある場合に契約の解除ができるかどうかは、その義務違反が、賃貸人と賃借人の、相互の信頼関係を破壊するに至る程度かどうか、という観点から判断されます(最高裁昭和39年7月28日判決など)。

 したがって、賃料不払、無断転貸、無断増改築等の契約違反がある場合は、それが「信頼関係を破壊するに至る程度か」を検討しなければなりません。これを「信頼関係破壊の法理」「信頼関係破壊理論」などと呼びます。

賃料滞納と信頼関係破壊

 賃料支払義務は、賃貸借契約において賃借人が果たすべき最も重要な義務であるから、これを怠った場合に信頼関係を揺るがすことは明らかです。

 そして、一般的には3ヶ月分程度の滞納があれば、信頼関係は破壊されるに至ったといえることが多いです。

 もっとも、単純に滞納賃料が何ヶ月分かあれば解除が可能と判断できるわけではありません。裁判例には、11ヶ月分(220万円)の滞納があったとしても、不動産が事業継続に不可欠であって、これを明け渡すことによって生ずる結果は不払賃料(220万円)に比べて余りにも重大であるなどとして、解除を認めなかったものもあります(東京地裁昭和63年6月28日判決)。

裁判上の和解における当然解除条項

 家賃滞納等があって裁判になった場合で、借主の強い要望で家主が継続に応じ、「今後、1ヶ月でも怠った場合には、賃貸借契約は当然解除となる」という和解条項を入れることがあります。

 裁判まで至った上での和解条項違反なので、さすがに解除可能と考えることもできるかもしれません。

 しかし、最高裁判例には、このような裁判上の和解に定められた条項についても、延滞が1ヶ月分のみであり、その延滞も何らかの手違いであって、賃借人が気付いていなかった、という事例について、やはり解除はできないとしているものがあります(最高裁昭和51年12月17日)。

 このように、賃貸借契約の解除を行う場合は、信頼関係が破壊されるに至っているか、慎重に判断する必要があります。

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