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東京地裁令和3年11月30日判決
本件は、借家人が貸室内にゴミを溜め込んだとして、家主から契約解除され、建物の明渡しを求められた事案です。裁判所は、借家人の用法遵守義務違反を認め、退去を命ずる判決を出しました。
事案の概要
物件は東京都台東区の12階建てマンションの5階の一室です。
契約は2014年7月からで、賃料および管理費は合計60,000円/月です。借家人は入居時48歳の男性で、障がい者および身体障がい者としての認定を受けていました。
2年毎の更新を経て、賃貸借契約は、2020年7月にも更新されました。
借主は、いつからかゴミを溜め込むようになり、2020年には、室内に段ボール,空ペットボトル,ビニール袋に詰めたゴミを溜め込み,床上1m以上にそれらが積み上がった状況となっていました。いわゆる「ゴミ屋敷」状態になっていたものと思われます。
2020年11月には家主は通知書を送り、ゴミの堆積状況が用法義務に違反するとして、本件の是正を求めました。しかし改善はなく、同年12月には、契約の解除通知を送りました。
双方の言い分
家主側は、賃貸借契約書の善管注意義務や、マンションの使用細則における「不潔、悪臭のある物品」の持ち込み禁止、に違反するなどとして、信頼関係が破壊されていると主張しました。
借家人側は、使用細則は見ていない、また、過去には片付けをしたこともあり、片付けが現在できないのは体調不良が理由でやむを得ないとして、信頼関係は破壊されていない、と主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、ゴミの堆積が建物の汚損・損耗を著しく進行させ、周囲にも悪臭・虫害などの悪影響を及ぼす、としました。
そして、ゴミが1メートルにもわたって堆積している状況は、使用細則の定めなどを待つまでもなく、民法上の用法義務違反にあたるとしました。
借家人の出入りの状況や裁判への対応状況などからすると、借家人が主張する、体調不良によって改善できなかったという、やむを得ない事情は認められない、としました。
ポイント
賃貸借契約を解除するには、契約書上の規定に形式的に違反しているのみならず、両者の信頼関係が破壊されていることが必要とされています。
これは裁判所の運用として定着していますが、具体的な信頼関係の破壊の有無の判断はなかなか難しい場合もあります。
本件は、いわゆるゴミ屋敷のような状態にある部屋について、用法違反を認定した一事例として、参考となります。
部屋に1メートル以上もゴミが堆積して、周囲にも被害が出ていたということで、結論としては解除が認められてしかるべき事案といえます。ただし、こうした事例もケースバイケースですので、本人の責任(体調不良の有無)や経緯、他人への被害の程度、改善の見込の有無なども考慮し、個別に判断が必要です。