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東京地裁令和3年7月20日判決
この事例は、店舗物件を賃借して飲食店(創作和食)を経営する会社が、新型コロナウィルスの影響で経営が悪化し、家賃滞納を理由として貸主から建物明渡と滞納家賃の支払いを求められた事例です。
飲食店側は、売上げが激減し、利益が90%減少していることから、家賃支払債務も90%相当が消滅していると主張しました。また、緊急事態宣言が出されていた間は賃料支払債務を負わない、と主張しました。
この他、連帯保証人(元代表取締役)は既に辞任し、代表取締役及び取締役の地位を離れているから、保証債務負わないと主張しました。
賃貸借契約の内容
飲食店営業を目的とした賃貸借契約です。
期間 2013年10月1日から2023年9月30日まで
賃料等 月額189万2205円
飲食店の運営会社の代表取締役(2013年9月当時)は、上記の賃貸借契約において、連帯保証人となっていました。
経過と争点
2020年初頭から拡がった新型コロナウィルス感染症により、飲食店は来客が減少したり、休業を余儀なくされるなど、経営環境が厳しくなりました。
そこで、本件の被告会社も、2020年2月分から7月分までの賃料等、合計1265万円以上を滞納したため、貸主から催告・解除通知の書面が2020年8月末ころ、送られました。
その後も滞納が継続し、明渡しと支払を求め、貸主側は2020年9月23日に裁判を起こしました。
被告店舗側は、飲食店の利益が90%減少していることから、貸主の義務も90%消滅しているため、賃料支払債務もやはり90%減少していると主張しました。また緊急事態宣言が出されて店舗が営業できなかった期間は、物件が使用することができなかったから賃料は発生しない、と主張しました。
この他、連帯保証人は2016年7月31日に代表取締役を辞任しているため、黙示の合意もしくは解除または信義則違反を理由に、保証債務を負わない、とも主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、結論としては新型コロナウィルス感染症による経営の悪化については、賃貸借契約には影響しないと判断しました。
貸主は特に、物件の使用を制限したわけでもなく、また当事者間で特別な取り決めもない、ということがその理由です。
連帯保証人の、代表取締役を辞任しているから保証債務を負わないとの主張に対しても、いずれも理由がないとして、認めませんでした。
結果として、貸主側の請求はいずれも認められました。
ポイント
新型コロナウィルス感染症の蔓延により、多くの飲食店は経営の著しい悪化を余儀なくされ、閉店や倒産が相次ぎました。
当事務所にオーナーから寄せられる相談の中にも、こうしたテナントの経営悪化による家賃滞納についてどうしたらよいか、というものが多くあります。
テナントとの信頼関係の維持や、退去の回避のために家賃の減免を検討することも一つの考え方ですが、支払うべきは支払って貰うという対応も可能です。本裁判例にもあるとおり、裁判所は、家主に負担を転嫁するべきではない、という判断をする傾向にあります。
コロナ禍は、たしかに店舗経営者(賃借人)には大変な試練ではありますが、家主には家主のリスク(物件の不具合や金利上昇等)もあり、もちろんこれは賃借人には転嫁できません。したがって、冷静に対応を選ぶ必要があります。
家賃滞納等でお困りの場合は、一度、ご相談されることをお勧めします。